- 正体は「水和熱・浸潤熱」という発熱反応:無水に近いグリセリンや乾いたクレイの粒子が、水分を抱え込む瞬間に熱を発生させる。ホットクレンジングと同じ原理。
- 温感成分不使用でも温かくなりうる:唐辛子エキス等の「受容体を刺激するタイプ」の温感成分とは仕組みが違う。
- 温かさ=洗浄力の高さではない:この発熱は「よく落ちている証拠」ではなく、あくまで水分と混ざる過程で起きる副次的な現象。
泥パックで感じる「温感」はなぜ起きるのか?
クレイパックや一部のクレイ洗顔料を肌にのせた瞬間、じんわりとした温かさを感じることがあります。パッケージに「温感」と書かれていないのに温かい、という体験に「なぜ?」と疑問を持つ人も少なくありません。
結論からいうと、これは唐辛子エキスのような肌の温感受容体を直接刺激するタイプの温感成分とは別の仕組みで起きています。乾いた状態に近い成分が水分と混ざるときに発生する、化学・物理的な発熱現象が正体です。
仕組み①:グリセリンが水と混ざるときに起きる「水和熱」
市販の温感化粧品の仕組みを解説する記事では、温感の原因を大きく2種類に整理しています。
ひとつは唐辛子果実エキスなどが肌の温刺激受容体を直接刺激するタイプ、もうひとつはグリセリンが水分と混ざる際の発熱を利用するタイプです(詳しくは温感化粧品はなぜ温まるのか?温まる成分の正体にせまるで解説されています)。
グリセリンは非常に強い吸湿性を持つ保湿成分で、水分をほとんど含まない濃い状態(無水に近い処方)で肌にのせると、肌の表面にあるわずかな水分やパック自体に含まれる水分と混ざろうとして水を強く引き寄せます。
この「水と混ざる(水和する)」過程そのものが発熱反応であり、これが「水和熱」あるいは「溶解熱」と呼ばれるものです。
逆に、あらかじめ十分な水分と一緒に薄めて配合されていると、この発熱はほとんど起こりません。無水に近い、乾いた状態であることが温かさの条件になっています。
仕組み②:乾いたクレイの粒子が水を抱え込むときの「湿潤熱」
クレイ(泥)そのものにも、似た性質があります。
乾燥した鉱物質の粉体粒子が水分を吸着するとき、粒子の表面で水分子が引き寄せられて熱が発生することが知られており、この現象は「湿潤熱(heat of wetting)」と呼ばれているのです。
粘土表面への水の吸着と湿潤熱についての学術研究(Water Adsorption on Clay Surfaces and Heat of Wetting)でも、乾いた粘土鉱物が水を吸着する過程そのものが発熱をともなうことが扱われています。
身近な例では、乾燥させた土に水をしみ込ませたときの温度変化を調べた土壌科学の研究があり、水がしみ込むにつれて土の温度が上がることが報告されています。
これはあくまで土壌を使った実験室内の計測値で、洗顔料やパックとして肌にのせたときに同じ大きさの温度変化が起きるという意味ではありませんが、「乾いた鉱物粒子が水を含む瞬間には、目に見えなくても発熱が起きている」という原理そのものは、クレイパックが温かく感じられる仕組みの一部として無理のない説明です。
クレイが持つこの吸着の性質は、汚れや皮脂を吸い付ける仕組みとも根っこが同じです(詳しくは泥が皮脂・汚れを吸着する仕組みで解説しています)。
ただし、水を吸着するときに出る熱と、皮脂や汚れを吸着する働きは別の現象なので、温かさの強さが汚れの落ちやすさを示すわけではありません。
なぜ「じんわり」と重さのある温かさに感じるのか
クレイパックの温かさは、カイロのようにすぐ冷めるタイプの熱ではなく、しばらくじんわりと続く感覚があります。
これは、厚みのあるペースト状のパックが肌の上に留まり、水分が急に蒸発しにくいためだと考えられます。
水分が肌の表面から蒸発するとき、周囲から熱を奪う「気化熱」という冷たさの手がかりが生まれますが、クレイパックのような厚みのある層は表面からの蒸発が緩やかなため、この「冷たさの手がかり」が起きにくく、水和熱・湿潤熱による温かさの方が相対的に感じ取りやすくなっている、というのが自然な説明です。
ホットクレンジングと同じ原理
「温感」を謳うクレンジングオイルやジェルの多くも、唐辛子系の受容体刺激成分ではなく、無水に近い処方が肌の水分と混ざることで温かくなるタイプが少なくありません。
つまり、無水グリセリン処方のクレイパックが温かく感じるのは、ホットクレンジングと同じ発熱の原理を、温感成分を別途加えずに素材そのものの性質だけで実現している状態と言えます。
「温感成分不使用なのに温かい」という体験は、決して不自然なものではなく、むしろ処方の組み方次第で起こりうる現象です。
知っておきたい注意点:温かさは洗浄力の高さではない
- 温かい=汚れがよく落ちている、ではない:この発熱は水和熱・湿潤熱という物理現象であり、洗浄力や毛穴汚れの除去力を直接高めるものではありません。
- 肌が乾燥していると温かさを感じにくいことがある:水和熱は水分と混ざることで生まれるため、肌の水分が少ない状態では発熱が弱く感じられる場合があります。
- 刺激を感じたら中止する:温かさの感じ方には個人差があり、肌が敏感な時期はピリピリとした刺激として感じることもあります。違和感が続く場合は使用を控えてください。
くちゃ(沖縄の海泥)も同じ原理?
くちゃも乾燥させた粉体の状態であれば、他のクレイと同じく乾いた鉱物粒子が水分を吸着する性質を持つため、原理としては同じ湿潤熱が起こりえます。
ただし、温かさの感じ方は粒子の細かさや配合されている水分量、他の保湿成分の有無によって処方ごとに変わるため、「くちゃだから特別温かい」と一律に言えるものではありません。
よくある質問
Q. 温かく感じるクレイパックほど効果が高いということですか?
A. 特定の効果を保証するものではありません。温かさは水和熱・湿潤熱という物理現象によるもので、洗浄力や毛穴ケア効果の高さと直接結びつくものではないとされています。
Q. 温感を感じないクレイパックは効果がないのですか?
A. そうではありません。処方の水分量や粒子の状態によって発熱の大きさは変わるため、温感の有無だけで効果を判断する必要はありません。
Q. 温かさが強すぎる、ヒリヒリする場合はどうすればいいですか?
A. 感じ方には個人差があり、肌の状態によっては刺激として感じることがあります。違和感が続く場合はすぐに洗い流し、使用を中止してください。
まとめ
クレイパックやクレイ洗顔で感じる「じんわりとした温かさ」の多くは、無水に近いグリセリンが肌の水分と混ざる水和熱、そして乾いたクレイの粒子が水を吸着する湿潤熱という、2つの物理現象によって説明できます。
これはホットクレンジングと同じ原理であり、温感成分を別途加えなくても自然に起こりうる現象です。
ただし温かさそのものは洗浄力の指標ではないため、心地よさとして楽しみつつ、刺激を感じたら無理せず使用を見直すのが安心です。
参考資料
- Physical Properties of Glycerine and Its Solutions(グリセリンとその水溶液の物性)(米国クリーニング協会 American Cleaning Institute のサイトで公開、2026年9月29日確認)
- 化粧品用語集「グリセリン」(日本化粧品技術者会 SCCJ、2026年9月29日確認)
- Thermodynamic Analysis of the Immersion of a Swelling Clay(膨潤性粘土の浸漬の熱力学的解析)(Médout-Marère ら、Journal of Colloid and Interface Science、1998年、2026年9月29日確認)
- Heat of Wetting of Soils(土壌の湿潤熱)(Russell & Richards、Proceedings of the Iowa Academy of Science、1938年、2026年9月29日確認)
- Temperature changes in soil as wetting front advances during infiltration(浸潤前線の進行にともなう土壌の温度変化)(Abu-Hamdeh、Journal of the Indian Society of Soil Science、2003年、FAO AGRIS書誌記録、2026年9月29日確認)
- The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway(カプサイシン受容体:痛覚経路の熱活性化イオンチャネル)(Caterina ら、Nature、1997年、2026年9月29日確認)



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