- 皮脂には4つの役割がある:うるおいを保つ、外部刺激からのバリア、肌を弱酸性に保つ抗菌的なはたらき、乾燥じわの予防。皮脂ゼロを目指すのはむしろ逆効果です。
- 問題は「酸化した皮脂」だけ:皮脂に含まれる不飽和脂質(スクワレンなど)が紫外線や時間経過で酸化すると、肌のバリア機能を弱める物質に変わります。
- 結論は「皮脂ゼロ」でなく「こまめなリセット」:1日分の皮脂が酸化しきる前に、穏やかに洗い流す習慣が実務的な着地点です。
皮脂は本当に「悪者」なのか
テカリや毛穴の黒ずみが気になると、皮脂そのものを「敵」のように感じてしまうことがあります。ですが皮脂には、肌にとって次のような役割が備わっているのです。
- うるおいを保つ:汗と混ざり合って皮脂膜をつくり、肌表面から水分が逃げるのを防ぎます。
- 外部刺激からのバリア:皮脂膜が失われると角質層にすき間ができ、外からの刺激やアレルゲンの侵入を受けやすくなることが知られています。
- 肌を弱酸性に保つ:肌の弱酸性の環境は、細菌が入り込んだり増えすぎたりするのを抑える環境づくりに関わるとされています(ただし、皮脂がその酸性にどこまで寄与しているかは、研究上まだはっきりしていません)。
- 乾燥じわの予防:肌のうるおいと柔軟性を保つはたらきがあり、肌を乾燥から守ることにつながります。
つまり、皮脂を根こそぎ落とすことは、かえって肌のバリア機能を乱す結果につながりかねません。「皮脂ゼロ」は目指すべきゴールではありません。
では、何が本当に問題なのか|「酸化する部分」の正体
皮脂が問題になるとすれば、それは皮脂そのものではありません。問題になるのは、皮脂に含まれる不飽和脂質(スクワレンやリノール酸など、二重結合を持つ分子)が、紫外線や熱、時間の経過によって酸化した場合です。
皮脂は分泌された直後から、空気中の酸素や紫外線にさらされ続けているのが実情です。分泌からの時間が経つほど、酸化した部分の割合は増えていきます。
「皮脂=悪者」ではなく「時間が経って酸化した皮脂=問題」という切り分けが実態に近い考え方です。
酸化するとどうなる?肌のバリア機能への影響
皮脂の酸化が肌にどう影響するかは、近年の研究でも具体的に示されています。
富士フイルムが発表した研究では、皮脂に含まれる酸化しやすい成分の一つであるリノール酸が、紫外線や熱で酸化して「過酸化リノール酸」に変わることが示されました。さらに分解が進むと、「アクロレイン」という物質が生じることも報告されています。
この研究では、皮膚モデルを使った実験で、肌のバリア機能の指標となる電気抵抗値が、過酸化リノール酸を加えた条件で約70%、アクロレインを加えた条件で約40%低下したと報告されています。
さらに、バリア機能に必須な脂質であるセラミドをつくる酵素(SPTLC3・CERS3)の遺伝子のはたらき(発現量)が約20〜30%抑えられ、アクロレインを加えた場合にはバリア構造を支えるタンパク質(インボルクリン・ロリクリンなど)の発現量も減ることが示されているのです。
酸化した皮脂は、複数の経路で肌の防御機能を弱める方向に働く可能性が、皮膚モデルの実験で示されたということです。
紫外線が生み出す「過酸化スクワレン」という物質
皮脂に多く含まれるスクワレンについても、紫外線による酸化が調べられています。
学術研究では、赤みを起こさない程度の少量の紫外線(UVA)でも、ヒトの皮脂や皮表脂質にスクワレンモノヒドロペルオキシド(過酸化スクワレン)が生成されることが報告されています。
この物質は、肌への刺激やコメド(角栓・毛穴づまり)の誘発などに関わる可能性が指摘されている物質群です。
つまり、日中に紫外線を浴びるほど、皮脂の中の「酸化した部分」は着実に増えていきます。特別に脂性肌でなくても、誰の肌でも起こり得る変化です。
ただし、皮脂に含まれるすべての成分が同じように酸化しやすいわけではありません。
酸化のしやすさは分子構造(二重結合の数)で決まり、スクワレンのように二重結合を複数持つ成分は酸化しやすい一方、水素を添加して二重結合をなくした「スクワラン」は酸化しにくい性質を持ちます。
「皮脂の成分すべてが同じリスクを持つ」というより、「酸化しやすい一部の成分が時間とともにリスクを積み上げていく」という理解の方が実態に近いといえます。
だから「皮脂ゼロ」ではなく「1日分をこまめにリセット」
ここまでの内容を踏まえると、目指すべきなのは「皮脂を残らず落とし切る」ことではなく、「その日分泌された皮脂が、酸化しきる前にリセットする」という実務的な考え方です。
皮脂そのものにはうるおい・バリア・抗菌・しわ予防という役割があるため、洗浄力の強い洗顔でゴシゴシ落とし切ろうとすると、かえって乾燥や刺激を招きやすくなります。
一方で、皮脂を何日も放置するほど、酸化した部分の割合が増えていくのは事実です。
「1日の終わりに、その日の皮脂を穏やかに洗い流す」というシンプルな習慣が、酸化のリスクを一定の範囲に抑える現実的な落としどころになります。
なお、これは「洗えば洗うほど皮脂が減って良い」という話とは別の論点です。
洗いすぎがかえって皮脂分泌を招くのではないか、という疑問については『洗いすぎで皮脂が増える』は本当か|リバウンド皮脂の検証で別に検証しています。
洗浄・角質・皮脂という肌バリアに関わる要素の全体像は垢すり・洗いすぎはターンオーバーに良い?肌バリアで考える『削る・溶かす・吸着』の違いで整理しています。
泥洗顔はこの文脈にどう位置づく?
泥(クレイ)の吸着は、肌表面に広がった液状の汚れを物理的に引き寄せて取り込む仕組みです。
界面活性剤による乳化は油分を化学的に取り込んで落とす仕組みで、洗浄力の設計によっては肌に必要な脂質まで一緒に落としやすい面があります(この違いは洗顔で汚れが落ちる仕組み|界面活性剤の乳化とクレイの吸着の違いで詳しく解説しています)。
クレイの吸着は皮脂を根こそぎ削り取るタイプの洗浄ではないため、「その日の皮脂を、必要な分は残しつつ、余分な分だけ穏やかに落とす」というリセットの目的に向いています。
なお、クレイ自体が皮脂の酸化を化学的に防ぐわけではなく、あくまで「酸化する前の皮脂を穏やかに取り除く」という役割にとどまる点には注意が必要です。
皮脂・テカリが気になる肌向けの具体的な泥洗顔の使い方は皮脂・テカリ肌の泥洗顔にまとめています。なお、酸化した皮脂が肌のくすみの一因になる場合もあるのです。
くすみのタイプ別の見分け方はくすみは泥で変えられる?|泥の出番があるくすみ・ないくすみの見分け方で整理しています。
実際の意識と行動にギャップはあるか
泥ラボ編集部が実施した意識調査(400人、2026年8月)で皮脂に対するイメージを尋ねたところ、「必要だとは思うが、多すぎると困る」が55.5%で最多、「肌に必要なもので、取りすぎないほうがよい」が21.0%と続き、「肌に不要なもので、できるだけ取り除きたい」という回答は14.0%にとどまりました。
一方で、テカリや皮脂が気になったときに洗浄力の強い洗顔料などで念入りに落とそうとすることが「よくある」「たまにある」と答えた人は、合わせて58.8%にのぼります。
「肌に必要なもので、取りすぎないほうがよい」と考えている人(84人)に限っても、35.7%は念入りに洗うことがあると回答しており、考え方としては理解していても、行動には結びついていないケースが一定数見られます。
念入りに洗う頻度を男女別に見ると、「よくある」と答えたのは男性22.0%に対し女性は6.8%と、男性の方が頻繁に念入り洗いをする傾向が見られました。
皮脂が時間の経過や紫外線によって酸化し、性質が変わることについて「よく知っていた」と答えたのは22.8%にとどまり、約4割は「聞いたことがある」程度の認知にとどまっていました。
参考資料
- 紫外線や熱で酸化した皮脂である過酸化脂質が皮膚のバリア機能を低下させる一因を解明(富士フイルム株式会社ニュースリリース、2023年。第1回日本化粧品技術者会学術大会での発表内容。2026年9月29日確認)
- Ultraviolet A induces generation of squalene monohydroperoxide isomers in human sebum and skin surface lipids in vitro and in vivo(Ekanayake Mudiyanselage S ほか、Journal of Investigative Dermatology、2003年、PubMed。2026年9月29日確認)
- Comedogenicity of squalene monohydroperoxide in the skin after topical application(Chiba K ほか、The Journal of Toxicological Sciences 25(2)、2000年、J-STAGE。ウサギ耳での動物試験。2026年9月29日確認)
- Safety Assessment of Squalane and Squalene as Used in Cosmetics(Cosmetic Ingredient Review、2026年9月29日確認)
- 皮脂欠乏症診療の手引き 2021(日本皮膚科学会、2026年9月29日確認)
- 皮膚角層pHの三層構造の発見(理化学研究所・慶應義塾大学医学部、2024年5月16日発表。2026年9月29日確認)
- The Origin, Intricate Nature, and Role of the Skin Surface pH (pHSS) in Barrier Integrity, Eczema, and Psoriasis(Mijaljica D ほか、Cosmetics 12(1)、2025年、MDPI。2026年9月29日確認)
- The Scenario of Clays and Clay Minerals Use in Cosmetics/Dermocosmetics(Sarruf FD ほか、Cosmetics 11(1)、2024年、MDPI。2026年9月29日確認)
よくある質問
Q. 皮脂を落とさない方が肌にはいいのですか?
A. 一律にそうとは言えません。皮脂には保湿・バリア・抗菌・しわ予防の役割があるため、まったく落とさないのも肌には負担になります。ポイントは「落とし切らないこと」と「酸化する前にこまめにリセットすること」の両立です。
Q. 皮脂が酸化しているかどうかは自分でわかりますか?
A. 目に見える形での判定は難しいですが、時間の経過とともに酸化した部分の割合は増えていくと考えられています。分泌から時間が経った皮脂ほど酸化のリスクが高い、という前提で洗顔のタイミングを考えるのが実務的です。
Q. 洗浄力の強い洗顔料でしっかり落とした方が安心では?
A. 洗浄力が強すぎると、酸化していない健やかな皮脂まで一緒に落としてしまい、乾燥や刺激の原因になり得ます。酸化した皮脂だけを狙って落とせるわけではないため、洗浄力よりも「こまめさ」を優先する考え方をおすすめします。
Q. 洗いすぎると皮脂が増えるというのは本当ですか?
A. これは本記事とは別の論点です。『洗いすぎで皮脂が増える』は本当か|リバウンド皮脂の検証で仕組みから検証しています。
まとめ
皮脂そのものは、うるおい・バリア・抗菌・しわ予防に関わる、肌に必要な存在です。
問題になるのは皮脂の中でも、紫外線や時間経過で酸化した部分だけで、酸化した皮脂は肌のバリア機能を弱める方向に働くことが研究でも示されています。
目指すべきは「皮脂ゼロ」ではなく、その日の皮脂が酸化しきる前に、穏やかにリセットする習慣です。



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