- 肌表面はふだん弱酸性に保たれている:角質層のバリアや角質のはがれ方は、肌のpH環境と深く結びついていると考えられている。
- 石鹸はアルカリ性で、洗浄後は一時的にこの状態から離れる:健康な肌であれば時間とともに元の状態へ戻っていくとされる。
- 顔と手・体では、角質の厚みが大きく違う:顔は角質が薄く影響を受けやすい一方、手のひらなどは厚みがあり高い洗浄力が歓迎される場面もある。
「石鹸は顔に使わないほうがいい」と言われる理由
「石鹸洗顔 やめたほうがいい」「洗顔石鹸 肌に悪い」といった検索が実際に存在するように、石鹸での洗顔に不安を感じる人は少なくありません。
背景にあるのは、石鹸がアルカリ性の洗浄剤であり、肌本来の状態(弱酸性)から一時的にずれてしまう、という仕組み上の事実です。
ただし、この事実だけを取り出して「だから石鹸は肌に悪い」と結論づけるのは早計です。何が、どのくらいの時間、どんな条件で起きているのかを順番に見ていきます。
肌表面はなぜ弱酸性に保たれているのか
肌表面全体を測定した場合、一般的にpH4.5〜5.5程度の弱酸性とされることが多いです。
これに加えて、理化学研究所などの研究グループが2024年に発表した知見では、角質層の内部をさらに細かく見ると、下層から上層にかけて酸性度が変化する層構造になっていることが示されています(皮膚表面全体としての弱酸性という測定と、角質層内部のさらに細かい層構造は、見ている粒度が異なる別の話です)。
この研究はマウスの角質層を対象としており、角質を分解して自然にはがす酵素(カリクレイン、KLKと呼ばれるタンパク質分解酵素)は、下層と中層では働きが抑えられた状態にあり、中性に近い最上層でだけ活性化して、古い角質がはがれ落ちやすくなる、という仕組みが数理モデルの計算で示されています。
このカリクレインという酵素自体は、洗いすぎと皮脂・ターンオーバーの関係でも、うるおいとpHに左右されるターンオーバーの主役として紹介しているとおりです。
また同じ研究では、皮膚炎モデルのマウスにアルカリ性の溶液を4日間塗って酸性の角質層中層を中性に近づけたところ、黄色ブドウ球菌がより深い層まで入り込んだという報告もあります。
酸性に保たれていること自体が、外からの刺激やちょっとした細菌に対する「壁」の役割を担っている可能性がある、ということです。
石鹸(アルカリ性)を使うと、肌のpHバランスには何が起きるのか
石鹸は、一般にpH9〜10前後とされる弱アルカリ性〜アルカリ性の洗浄剤です。
洗浄力の高さはこのアルカリ性によるところが大きく、皮脂や汚れをしっかり落とせる一方で、洗った直後の肌表面は一時的にアルカリ性へ傾きます。
健康な肌であれば、この傾きはそのままではなく、時間をかけて元の弱酸性へ戻っていくとされているのです。
目安として、洗浄後おおよそ数時間程度で回復するという報告がありますが、洗浄を過度に繰り返す場合は、この回復により長い時間がかかるとする報告もあります。
回復にかかる時間や、それが肌トラブルに直結するかどうかは、肌質や環境によって差があり、一律に断定できるものではありません。
「洗うたびに肌が傷つく」という単純な話ではなく、「一時的にアルカリ性に傾き、時間をかけて戻る」という一つの生理現象として理解しておくのが実態に近いといえます。
顔と体・手で「相性」が違う理由
同じ「肌」でも、部位によって角質層の厚みは大きく異なるのです。
具体的な層数は資料によって幅がありますが、顔の角質層は全身の中でも薄い部類に入る一方、手のひらの角質層は数十層にもおよび、顔とは比べものにならないほど厚いとされています。
- 顔:角質層が薄いため、アルカリ性の洗浄剤による一時的な変化の影響を相対的に受けやすい可能性がある部位。
- 手:角質層が厚く、外からの刺激に強い一方、日常的に汚れ・雑菌に触れる機会が多いため、洗浄力の高さがむしろ歓迎される場面が多い部位。
- 体(背中・腕など):顔よりは角質層が厚めで、皮脂・汗の分泌量も部位によって異なるため、石鹸の洗浄力とバランスが取りやすいとされる部位。
つまり「石鹸=肌に悪い」ではなく、「石鹸の高い洗浄力と、その部位の角質の厚み・皮脂量が見合っているか」で相性が変わる、と捉えるほうが実態に近いということです。
クレイ入りの洗顔料でも、石けん系の洗浄成分を使った商品は少なくありません。その場合の注意点と選び方はクレイ洗顔のデメリット6つで解説しています。
「メイクが落ちるか」とは別の論点
石鹸については「クレンジングとして使えるか(メイクが落ちるか)」という論点もありますが、これは本記事のテーマとは別の話です。
石鹸の洗浄力そのものや、メイクが落ちる・落ちない仕組みについては石鹸はクレンジングになるのかで詳しく扱っています。
本記事で扱っているのは、あくまで「日常の洗顔として、顔に使い続けるのに適しているか」という、肌適性の論点です。
結局、顔に石鹸を使ってもいいのか
- すでに石鹸洗顔で問題を感じていない場合:無理にやめる必要はありません。洗い上がりの乾燥・つっぱりが気にならないなら、そのまま続けて問題ない場合が多いです。
- 洗顔後に乾燥・つっぱりを感じやすい場合:石鹸のアルカリ性が影響している可能性はあります。洗浄力のおだやかな洗顔料に替える、または洗顔後の保湿を徹底するといった対策で様子を見るのがおすすめです。
- 手・体の石鹸洗浄と同じ感覚で顔も洗いたい場合:角質の厚みが違う部位であることを踏まえ、顔は短時間・やさしく洗う、頻度を調整するなど、部位に応じた力加減を意識すると失敗しにくくなります。
よくある質問
Q. 石鹸で顔を洗うと肌が老化しやすくなりますか?
A. そこまで直接的な因果関係は確立されていません。石鹸のアルカリ性によって肌表面が一時的に変化することは事実ですが、それが老化に直結すると断定できる根拠はなく、個人差も大きい話です。乾燥・つっぱりを感じる場合は、洗浄力や頻度を見直すことをおすすめします。
Q. 弱酸性の洗顔料のほうが必ず優れていますか?
A. 一概にそうとは言えません。弱酸性であることは肌本来の状態に近いという意味では理にかなっていますが、洗浄力や処方全体のバランスも重要です。自分の肌質・洗い上がりの感覚に合うかどうかで判断することをおすすめします。
Q. 石鹸で手や体を洗うのは問題ないですか?
A. 角質層が厚い部位であるため、顔ほど神経質になる必要はないとされています。ただし手洗いの頻度が非常に高い、乾燥が気になるといった場合は、保湿を意識するとよいでしょう。
まとめ
石鹸は「肌に悪い」と単純に言い切れるものではなく、アルカリ性の洗浄剤として一時的に肌表面のpHを変化させる、という仕組みを持っているだけです。
健康な肌であれば時間をかけて元の状態に戻るとされ、顔と手・体では角質の厚みが違うため相性も変わります。
すでに問題を感じていないなら無理にやめる必要はなく、乾燥・つっぱりが気になる場合は洗浄力や頻度、保湿を見直すところから調整するのがおすすめです。
石鹸そのものの洗浄力や、メイクが落ちるかどうかが気になる場合は石鹸はクレンジングになるのかもあわせてどうぞ。
実際、どれくらいの人が信じている?(330人調査)
泥ラボ編集部が実施した独自アンケート(有効回答330名)では、この説を「聞いたことがある」人・「正しいと思う」(計)と答えた人はともに32.4%でした。
「グリセリンフリー」説に次いで認知率が低く、①〜④の説ほど広く知られてはいない説であることがうかがえます。実際に固形石鹸を使っている人は現在23.7%、以前は使っていたが今はない人が38.7%でした。
調査の詳しい内訳や他の説の結果は、洗顔の「よく聞く説」6つ、信じている人は何%?|330人実態調査【2026年版】にまとめています。
※当サイト編集部が実施した自社調査(インターネット調査・有効回答330名)です。
参考資料
- 皮膚角層pHの三層構造の発見(理化学研究所プレスリリース、2024年5月16日発表、2026年9月29日確認)
- Fukuda K, et al. Three stepwise pH progressions in stratum corneum for homeostatic maintenance of the skin(Nature Communications、2024年、2026年9月29日確認)
- Ali SM, Yosipovitch G. Skin pH: From Basic Science to Basic Skin Care(Acta Dermato-Venereologica、2013年、2026年9月29日確認)
- Tyebkhan G. A study on the pH of commonly used soaps/cleansers available in the Indian market(Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology、2001年、2026年9月29日確認)
- Ya-Xian Z, Suetake T, Tagami H. Number of cell layers of the stratum corneum in normal skin(Archives of Dermatological Research、1999年、2026年9月29日確認)



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