基準を公開して比較|広告・PRは明記します(泥ラボ編集部)
死海の泥、モロッコのガスール、火山地帯の温泉泥、そして沖縄の「くちゃ」——世界には、土地の泥や粘土を肌のお手入れに使ってきた文化が数多くあります。なぜ人は昔から「泥」を美容に使ってきたのでしょうか。
各地の泥美容のルーツをたどりながら、現代のクレイスキンケアとのつながりを見ていきます。
この記事でわかること
- 死海泥・ガスール・火山泥・くちゃ、それぞれの伝統的な使われ方
- 世界各地で泥・クレイが美容に使われてきた共通の理由
- 伝統と現代のクレイスキンケアのつながり
30秒でわかる結論
- 死海泥・ガスール・火山泥・くちゃは、それぞれできた場所も歴史的背景も異なる泥・粘土で、いずれも洗うことや美容に使われてきたと伝えられています。ただし、古い記録の残り方は地域によって大きく違います。
- 共通しているのは、汚れや余分な皮脂を吸着する泥・粘土の性質を、洗浄や美容の目的で経験的に活用してきた点です。
- 現代の商品は、こうした伝統的な泥を精製・品質管理したうえで製品化したもの。産地の物語を知っておくと、選ぶときの視点が広がります。
泥美容はいつから?世界各地に息づく伝統
「泥を肌に塗る」という発想は、実は特別なものではありません。土や粘土が採れる土地では、古くから泥や灰を体や髪の汚れ落としに使う知恵が、生活の中で自然に育まれてきました。
せっけんや洗剤がなかった時代、あるいは高価だった時代に、身近にある泥・粘土の「吸着する性質」を経験的に見つけ、使ってきたと考えられています。
粘土を暮らしに使う歴史は古く、化粧品での粘土の使われ方をまとめた総説(Sarruf ほか, 2024)でも、古代の中国・エジプト・ギリシャの文献に、粘土鉱物を主とする「薬用の土」が使われた記録があると紹介されています。美容目的に限った記録ではありません。ただし、この記事で取り上げる4つの泥については、古い記録がどれだけ残っているかが地域によって大きく違います。以下では、確かめられたことと言い伝えを分けて書いています。
死海泥・ガスール・火山泥・くちゃは、その代表的な例といえます。それぞれ成り立ちも歴史的な背景も異なるので、順番に見ていきましょう。
死海の泥|塩の湖として知られてきた歴史
イスラエルとヨルダンの国境にある死海は、塩分濃度が非常に高いことで知られる湖です。
湖の水は1Lあたり約340gの塩類を含み、溶けているプラスのイオンはマグネシウムがいちばん多く、ナトリウム・カルシウム・カリウムが続くと報告されています(Khlaifat ほか, 2020)。これは湖の水の値で、泥そのものの組成ではありません。古代ギリシャのアリストテレスも『気象論』で、人や動物を縛って投げ込んでも沈まないというパレスチナの湖の言い伝えを取り上げています(死海のことと考えられています)。泥を美容や保養に使ってきたとも語られますが、編集部が確認できた古代の記録は湖や温泉についてのもので、泥の美容利用を直接書いたものは見つかっていません。
「クレオパトラが死海の泥を愛用していた」という逸話は広く知られていますが、編集部が確認した範囲では、この逸話を記した古代の史料は見つかりませんでした。出典のない言い伝えとして扱うのが妥当です。
記録として確かめられるのは、たとえば1世紀の歴史家ヨセフスが『ユダヤ古代誌』に、ヘロデ王が晩年ヨルダン川の東へ渡り、アスファルティス湖(死海の古い呼び名)に流れ込むカリロエの温泉で湯あみしたと書き残していることです。これは温泉についての記録で、泥を使ったという記述ではありません。死海泥そのものの詳しい特徴は死海泥とは|特徴と使い方で解説しています。
ガスール|モロッコで「洗う粘土」として使われてきた粘土
ガスール(ラッスル)は、モロッコのムルーヤ川流域にある鉱床で採掘される粘土で、知られている鉱床は世界でここだけと報告されています(Tokarský, 2018)。日本の化粧品の全成分表示では一般に「モロッコ溶岩クレイ」と書かれ、日本化粧品工業会の定義では「モロッコにおいて採掘されるスメクタイトの一種」とされています。
モロッコには「ハマム」と呼ばれる伝統的な公衆浴場の文化があります。ガスールという名前はアラビア語の「洗う」を意味する動詞に由来し、何世紀にもわたって天然の石けんやシャンプーとして使われてきたと報告されています(Tokarský, 2018)。ハマムでガスールを使う習慣もよく紹介されますが、編集部が確認できた学術資料で確かめられたのは「洗うために長く使われてきた」という点までです。
成り立ちは、大昔の淡水〜汽水の湖に積もった地層が変化してできた粘土と報告されており(Tokarský, 2018)、名前に「溶岩」と付きますが溶岩からできたものではありません。今ある塩湖・死海の泥とも、火山活動に由来する火山泥とも、成り立ちが異なります。
産地による性質の違いをまとめて比較したい場合はガスール/カオリン/ベントナイト/くちゃ/死海泥 徹底比較もあわせてご覧ください。
火山泥・温泉泥|火山地帯に伝わる泥浴の文化
イタリアの温泉地や、日本各地の温泉地など、火山活動が活発な地域では、湧き出る泥や周辺の土を使った「泥浴」の文化が世界各地で見られます。
温泉の蒸気や熱で温められた泥に体を浸す、あるいは塗って休むという習慣は、保養・湯治の文化と結びつきながら各地で育まれてきました。
たとえばイタリア北東部のエウガネイ温泉地区(アバノ・テルメ、モンテグロット・テルメなど)は、火山に由来するエウガネイ丘陵のふもとにあり、古くから温泉水と泥で知られてきた地域です。ここでは温泉湖の底から採った粘土を温泉水で湿らせ、40℃前後の流れる温泉水の下で少なくとも2か月かけて「熟成」させた泥が使われています(La Rocca ほか, 2020)。こうした泥は温泉施設で使われるもので、市販の化粧品とは目的も管理も別物です。
日本でも、温泉地のお土産として泥を使ったコスメが販売されていることがあり、湯治文化とスキンケアが結びついた例のひとつといえます。
火山泥・温泉泥の製品としての特徴や選び方は温泉泥・火山泥スキンケアという選択で詳しく解説しています。
くちゃ|沖縄で受け継がれてきた海の泥
沖縄の「くちゃ」は、沖縄本島南部に広がる島尻層群(しまじりそうぐん)と呼ばれる地層のシルト岩(泥岩)で、約780万〜200万年前の海の底にたまった泥が地層になったものです。乾くと灰白色になって崩れやすく、方言で「クチャ」と呼ばれてきました。
沖縄市立郷土博物館の解説では、くちゃは昔、今のシャンプーのように髪を洗うのに使われていたそうだと紹介されています。また、産業技術総合研究所の地質図の説明書によれば、畑の客土(土を入れ替えて改良するための土)としても使われてきました。
海の底にたまった泥の地層という成り立ちは、湖の泥である死海泥や、大昔の湖の地層に由来するガスールとは異なる、沖縄ならではの泥です。くちゃを含めた主要な泥・クレイの特徴の違いは、先ほどのクレイ徹底比較にまとめています。
伝統から現代のクレイスキンケアへ
- 産地の物語を知っておく
死海泥・ガスール・火山泥・くちゃは、それぞれ違う土地・違う成り立ちを持つ泥です。「なぜその土地でその泥が使われてきたのか」を知っておくと、製品選びの際の視点が広がります。 - 今の製品は精製・品質管理されたもの
伝統的に使われてきた泥そのものと、現在販売されているコスメ用の泥は同じではありません。現代の製品は、異物の除去や粒子の調整、品質管理を経て作られています。「昔から使われてきた泥だから」という理由だけで自己流に採取した泥を使うのは避け、製品として管理されたものを選びましょう。 - 使い方は現代のクレイケアの基本に合わせる
産地や歴史が違っても、使い方の基本(乾かしすぎない・こすらない・使ったら保湿)は共通です。頻度や置き時間の考え方は泥パックの頻度・置き時間・落とし方を参考にしてください。
敏感肌の人が初めて別の産地の泥を試すときは、敏感肌でも泥は使える?選び方・使い方もあわせてチェックしておくと安心です。
歴史の泥は、今の全成分表示でどう書かれている?
日本の化粧品の全成分表示は、日本化粧品工業会(JCIA)の「成分表示名称リスト」の名前で書かれます。歴史に出てくる泥がこのリストでどう書かれるかと、泥ラボ編集部が全成分表示を集めた市販品854品のうち何品に入っていたかを並べると、次のとおりです。
| 歴史に出てくる泥 | 全成分表示での名前(JCIAの定義) | 泥ラボ成分DB 854品中 |
|---|---|---|
| くちゃ(沖縄) | 海シルト(海の沈積物)。「海泥」単独の表示名称はありません(「海泥抽出物」という別成分はあります) | 全成分に「海シルト」を含む24品(22ブランド)。くちゃと明記していない商品や、氷河泥をうたう商品1品を含む。内訳は石鹸10品、洗顔フォーム5品、泥パック5品、ほか洗顔パウダー・洗顔ジェル・クレンジング各1品 |
| ガスール(モロッコ) | モロッコ溶岩クレイ(モロッコにおいて採掘されるスメクタイトの一種)。「ガスール」という表示名称はありません | 6品(6ブランド)。泥パック3品、洗顔フォーム2品、洗顔パウダー1品 |
| 火山泥・温泉泥 | 「火山泥」という表示名称はありません。火山に関係する表示名称には、火山灰(溶岩堆積物から得られる非晶質の無機ケイ酸塩)、火山岩(火山周辺から得られる鉱物)などがあります | 表示名称「火山灰」2品(2ブランド)、「火山岩」2品(1ブランド)。火山泥・温泉泥の商品かどうかはDBでは判定していません |
| 死海の泥 | 「死海」を含む表示名称はありません(2026年9月29日確認) | 数えられません(死海の泥をうたう商品が全成分表示でどの名前になっているかは、商品ごとに確かめる必要があります) |
気をつけたいのは、表示名称が産地を表すとは限らないことです。「海シルト」は海の沈積物を広く指す名前で、くちゃだけに使われるわけではありません。実際、24品の中にも商品名で氷河の泥をうたう商品が1品ありました。くちゃかどうかは「海シルト(クチャ)」のような併記や、商品名・産地の表示で確かめるのが確実です。また、ガスールは名前に「溶岩」とある「モロッコ溶岩クレイ」で表示されることが多いですが、ガスール自体は湖の地層に由来する粘土と報告されています(Tokarský, 2018)。死海の泥をうたう商品は、全成分表示の名前だけでは死海の泥かどうかを見分けられないため、商品説明の産地表示もあわせて見てください。
データについて:泥ラボ成分DB(2026年8月26日〜9月4日に、編集部が市場調査で選んだ市販品854品・約360ブランドの全成分表示を公式サイト等から転記。2026年9月29日集計)。無作為抽出ではなく、市場シェアを示すものではありません。品数は表示名称ごとに数えています。表示名称の定義は日本化粧品工業会「化粧品の成分表示名称リスト」(2026年9月29日確認)によります。
よくある質問
クレオパトラが死海の泥を使っていたというのは本当ですか?
広く知られている逸話ですが、編集部が確認した範囲では、この逸話を記した古代の史料は見つかりませんでした。史実として確かめられた話ではなく、言い伝えとして扱うのが妥当です。
死海が古代から知られた湖で、周辺の温泉が使われていた記録(1世紀の歴史家ヨセフスの著作など)はありますが、クレオパトラが死海の泥を使ったことを示すものではありません。
昔の泥と今のクレイコスメは同じものですか?
採れる場所や基本の成分は共通していますが、そのまま同じものではありません。現在の製品は、異物の除去や粒子の細かさの調整、品質管理の工程を経て作られています。
自己流に採取した泥をそのまま肌に使うのは避けてください。
死海泥・ガスール・火山泥・くちゃ、どれが一番古くから使われていますか?
それぞれの地域でいつから使われ始めたかを正確に特定する記録は限られており、「どれが一番古いか」を明確に断定することは難しいのが実情です。
ただし、古い記録がどれだけ残っているかは地域によって大きく違い、死海の泥の美容利用については古代の記録が見つかっていません。
産地が違うと、効果も大きく違いますか?
汚れや余分な皮脂を吸着するという基本の働きはどの泥にも共通していて、産地の違いがそのまま効果の優劣につながるわけではありません。
吸着力の強さや使用感は、産地よりも製品ごとの配合や粒子の細かさによる部分が大きいと考えられています。
まとめ
死海泥・ガスール・火山泥・くちゃは、それぞれ違う土地で、違う歴史的背景の中から生まれた泥・クレイです。
成り立ちは違っても、泥や粘土を洗うことや美容に使う文化は各地で伝えられていますが、記録の残り方は地域ごとに違います。
産地の物語を知ったうえで、現代の製品としてきちんと管理されたものを、自分の肌や使い方に合わせて選ぶのがおすすめです。
参考資料
- 化粧品の成分表示名称リスト(「海シルト」「シルト」「モロッコ溶岩クレイ」「ガスール」「火山灰」「火山岩」「死海」で検索)(日本化粧品工業会、2026年9月29日確認)
- 2008年度の一品紹介「クチャ」(沖縄市立郷土博物館、2026年9月29日確認)
- 沖縄島南部の地質―泥の海とサンゴの海―(学芸員コラム)(沖縄県立博物館・美術館、2026年9月29日確認)
- 地域地質研究報告 5万分の1地質図幅「那覇及び沖縄市南部地域の地質」(氏家宏・兼子尚知)(産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2026年9月29日確認)
- Tokarský J. Ghassoul – Moroccan clay with excellent adsorption properties. Materials Today: Proceedings 5 (2018) S78–S87(Elsevier、2026年9月29日確認)
- PIA01916: The Dead Sea(NASA Jet Propulsion Laboratory、2026年9月29日確認)
- Khlaifat A. ほか. Mixing of Dead Sea and Red Sea waters and changes in their physical properties. Heliyon 6(11):e05444 (2020)(Heliyon/PubMed Central、2026年9月29日確認)
- Aristotle, Meteorology, Book II(E. W. Webster 英訳)(The Internet Classics Archive, MIT、2026年9月29日確認)
- Josephus, Antiquities of the Jews, Book XVII, 6.5(W. Whiston 英訳)(University of Chicago、2026年9月29日確認)
- La Rocca N. ほか. Microbiota of the Therapeutic Euganean Thermal Muds with a Focus on the Main Cyanobacteria Species. Microorganisms 8(10):1590 (2020)(MDPI、2026年9月29日確認)
- Sarruf FD ほか. The Scenario of Clays and Clay Minerals Use in Cosmetics/Dermocosmetics. Cosmetics 11(1):7 (2024)(MDPI、2026年9月29日確認)



コメント